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食品消費税ゼロ、私が反対に転じた理由

ーー財源なき減税が招くもの、そして今問われていること

つい最近まで、食品の消費税をゼロにするのはいい話だと思っていました。スーパーのレシートを見るたびに、食品にかかる8%という数字が目に入る。物価はじわじわと上がり続け、実質賃金は4年連続でマイナス。「せめて食べ物だけでも税金を下げてほしい」という声は、ごく自然な感情だと思っていたし、私自身そう感じていました。

ところが選挙期間中に各党の演説や討論を追ううちに、いくつかの疑問が頭をよぎるようになりました。「財源はどうするのか」「2年後に元に戻せるのか」「そもそも物価高の根本的な解決になるのか」——小さな疑問が積み重なり、気づけば考えが変わっていました。

反対に転じた理由は三つです。財源の説明がまったく成立していないこと。効果が、すでに実施されている光熱費補助金と大差ないこと。そして2年後に税率を元に戻すとき、それは国民に「増税」として受け取られ、むしろ経済にマイナスになりかねないこと。

順番に説明していきます。


どのくらい必要になるのか

食品(飲食料品)の消費税をゼロにすると、年間でどれくらいの税収が減るのか。

試算では年約5兆円です。食品にかかる8%が丸ごとゼロになるわけですから、この税収は全額なくなります。2年間の時限措置であれば、2年合計で10兆円規模の税収減になります。

政府の2026年度予算案を見ると、消費税収は一般会計ベースで26.7兆円の見込みです。その約20%近くが、この政策一本で消えることになります。社会保障の財源として機能してきた税収が、です。

では、この穴をどう埋めるのか。ここが問題の核心です。


「成長が財源になる」という言葉の意味

NHK日曜討論(2026年2月22日放送)で、高市政権の経済アドバイザーを務めるPwCチーフエコノミスト・片岡剛士氏はこう述べました。「減税の財源については全く心配していない。10兆円の財源については出していけると思う。足元の日本の財政状況は改善しているということを無視することはできない。名目の成長率が上がっていることによって生じている。成長を続けていくことが安定財源の最大の近道なのかなと考えている」。

「成長が財源になる」。聞こえはいいのですが、これが何を意味するのか、もう少し掘り下げてみましょう。

日本のGDP成長率は、政府の見通しで2026年度は実質1.3%です。ただしこの数字には「ゲタ」と呼ばれる統計上の繰越効果が含まれています。ゲタを取り除いた実態的な成長は0.2〜0.3%程度にとどまるという試算があります。

そして日本の「潜在成長率」——経済がフル稼働した場合の成長の上限——はIMFの推計で約0.5%です。少子高齢化で労働力が減り、生産性の伸びも頭打ちになっている構造は、内閣府自身の資料でも認めています。

0.2〜0.3%の実態成長で、上限が0.5%。この幅の中で「成長が安定財源になる」と言えるのでしょうか。

年5兆円の税収減を成長だけで補うには、税収が毎年5兆円以上増え続けなければなりません。現在の税収ベースでいえば、毎年6%前後の増収が必要です。名目GDPの成長率が政府見通しの3.4%でも、その水準にはとても届きません。

もっと根本的な問題もあります。成長で税収が増えている局面でも、政府は国債発行額を減らしていません。2026年度予算案では、インフレによる税収増があったにもかかわらず、新規国債発行は前年度比で3.3%増えています。つまり「成長の恩恵は財源に充てられていない」のが現実です。


「悲願」という言葉が気になって

高市首相は消費税ゼロを「長年の悲願」と繰り返しました。1月19日の解散表明会見でも、選挙中の演説でも。施政方針演説でも力を込めて語りました。

でも、本当に悲願だったのでしょうか。

高市氏は2000年から活発にブログを書いてきた政治家で、記事は1000本以上あります。消費税について触れた記事は7本。そのうち食品消費税ゼロを主張したものはありません。2020年の記事では「日本の10%という税率は欧州の25%と比べると低い水準だ」と書いていました。2014年には消費税増税を必要な政策として支持する立場でした。

「悲願」というのは、長年にわたって一貫して抱き続けてきた願いのことを言うはずです。公開された記録を見る限り、2025年5月に「食料品は国民の尊厳として0%であるべき」と初めて言及するまで、そういう一貫性は見当たりませんでした。


「光熱費補助金と同じ効果」という問題

では、財源論を脇においたとして、消費税ゼロは物価高対策として有効なのでしょうか。

ここで比較になるのが、現在実施されている光熱費補助金です。

光熱費補助金は、エネルギーコストの上昇という物価高の根本的な一因に直接作用する対策です。年間1〜2兆円規模の財源を使って、電気代・ガス代の一部を負担し、一定程度おさえてきました。

では食品消費税ゼロは、物価高の何に作用するのでしょうか。

食品価格が2021年比で約29%上昇した主な原因は、円安による輸入原材料費の高騰、エネルギーコストの上昇、物流費の増加です。食品の値段は海外の原材料相場と円の価値に大きく左右されています。

国内の税率を0%にしても、輸入コストは1円も変わりません。食品メーカーや小売業者が「税率が下がった分を全部値下げに回す」かどうかも不確かです。競合環境や仕入れコストの動向によっては、利幅の改善に充てられる部分も出てくるでしょう。

費用対効果として、これで十分と言えるのかどうか。


最も見えにくい問題——「2年後」のこと

「2年間の時限措置」として実施された場合、2年後に8%に戻す局面が必ずやってきます。

その時、消費者はどう感じるでしょうか。

「元に戻った」ではなく、「また税金が上がった」と感じるはずです。心理的には間違いなく「増税」です。

行動経済学では「損失回避バイアス」という概念があります。人間は同じ金額でも「得ること」より「失うこと」に約2倍敏感に反応します。減税で食費が少し下がった喜びより、元に戻ったときの不満の方が心理的には大きくなります。

つまり2年間の減税が終わった瞬間、政権は「消費税を上げた」という批判にさらされます。そのプレッシャーに耐えられず、延長を決める可能性が高い。実際、ガソリン税の暫定税率は「暫定」という名のまま50年以上続きました。

「時限措置が恒久化する」という前例は枚挙にいとまがありません。

もし恒久化すれば、財源として示された「税収の上振れ」や「税外収入」では到底追いつかず、結果的に国債発行増か、社会保障費の削減かという選択を迫られることになります。「2年間の橋渡し措置」が、将来の財政リスクの種を撒くことになりかねない。


防衛費との非対称性

2026年度予算案によると、防衛関係予算は9兆円を超え、12年連続で過去最大を更新します。無人機による沿岸防衛体制の構築、長射程ミサイルの配備加速。防衛費増額は、2022年の安保3文書改定時に財源まで明示されました。法人税・所得税・たばこ税の増税を組み合わせるという具体的な設計図です。

一方、食品消費税ゼロは。財源は「国民会議で検討」「成長が財源になる」。「夏前には中間とりまとめを行い、税制改正関連法案の早期提出をめざす」という、「野党の協力が得られれば」という条件付きの言葉が並びます。

同じ政権が、9兆円規模の軍拡には財源を具体的に法律に明記し、5兆円規模の民生費削減には「成長で何とかなる」という説明しかしていない。この非対称性は、施政方針演説の「重心」がどこにあるかを示していると思います。


では、何をすべきか

物価を抑える効果として有効なのは何でしょうか。

食品価格の上昇は円安・輸入コストに起因しています。だとすれば、根本的な対策は為替政策や、輸入食品の価格を左右するサプライチェーンの多様化です。これは時間がかかりますし、政府が直接コントロールできる部分も限られます。

短期的に家計を支援するという観点では、給付付き税額控除の方が有効性は高いと考えます。消費税ゼロは全世帯が一律に恩恵を受けますが、食費が多い高所得世帯の方が絶対額では得をします。逆進性の解消という本来の目的とは逆行します。給付付き税額控除なら、低・中所得層に集中して手当できます。

ただし給付付き税額控除は「数年単位の準備が必要」という問題があります。マイナンバーと税務システムの連携、インフラ整備が前提になります。だから消費税を「橋渡し」にするという論理は理解できます。でもそれを言うなら、橋の両端がきちんと確認できなければなりません。「橋渡し」の先にある給付付き税額控除の具体的な設計図と実施スケジュールが示されない限り、「橋渡し」は単なる「始まりのない終わり」になります。

もし消費税減税を行うとすれば、条件として財源を法律に明記することを求めるべきです。防衛費がそうであったように。「租税特別措置の見直し」「税外収入も勘案」という曖昧な言葉ではなく、何を、いくら、いつまでに確保するかを法律に書く。それができないなら、実施すべきでないというのが私の考えです。


国民会議に問うべき三つのこと

これから超党派の国民会議が動き出します。この議論を追うとき、読者の皆さんにも注目していただきたいことがあります。

一つ目。「成長が財源」以外の答えが出てくるかどうか。

片岡氏の「問題ない」という発言は、税収の上振れや剰余金を活用すれば2年間はなんとかなるという計算に基づくものと見られます。それは「安定財源」ではなく「好景気の余剰資金の一時流用」です。景気が下振れた場合の代替案、給付付き税額控除が整備された後の財政計画——そういう踏み込んだ答えが出てくるかどうかに注目してください。

二つ目。2年後に本当に8%に戻す保証があるかどうか。

国民会議の議論の中で、延長や恒久化の議論が出てきたとき、政権はどう応答するか。「元に戻す」という約束の担保は何か。過去の「暫定」措置がどうなってきたかの検証も、国民会議では必要です。

三つ目。給付付き税額控除との「順序と整合性」がどう語られるか。

施政方針演説では消費税減税と給付付き税額控除を「同時に議論する」とされています。でも「2年間の時限措置」という設計は、給付付き税額控除が2年以内に完成することを前提にしているはずです。その具体的なスケジュールと、「間に合わなかった場合」の扱いが、国民会議でどう議論されるかを見てください。


おわりに

繰り返しになりますが、食品の消費税を下げてほしいという気持ちは正当だと思っています。物価が上がり、賃金の実質的な購買力が落ちている中で、日々の食費の重さは多くの家庭が感じていることです。

ただ、政策を評価するときに見るべきことは、その気持ちへの共感だけではありません。財源は何か。効果はどの程度か。終わり方はどうするのか。この三つの問いに対して、現時点で政府が示している答えは、いずれも十分とは言えません。

「財源がない」「効果は補助金程度」「終わり方がマイナスに働く」——この三つが揃う政策は、たとえ動機がどれだけ正当であっても、冷静に見直す必要があると思います。

私が反対に転じたのは、消費税が嫌いだからでも、緊縮財政が好きだからでもありません。この政策がどういう設計になっているかを見た結果、「このやり方では国民に恩恵が届かない」と判断したからです。

国民会議の議論が始まります。ぜひ一緒に、数字と設計図を注意深く見ていきましょう。


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