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ナフサ不足とホルムズ海峡――「目詰まり」で片づける政府説明の危うさ

政府は、ナフサ由来製品の供給について「必要量は確保できている」と説明しています。一部で混乱が起きているのは、需要側の過剰発注や流通の「目詰まり」が原因だ、という整理です。

なるほど、便利な言葉です。「目詰まり」。

どこかで何かが詰まっている。だから、蛇口の水は十分あるのに、末端に届かないだけなのだ。そう聞けば、問題は構造ではなく運用に見えます。政府の見通しが甘かったのではなく、現場が慌てた。供給が細っているのではなく、流通が混乱した。そういう印象を与えるには、実に都合のよい言葉です。

しかし、ナフサ不足をめぐって私たちの目の前で起きていることは、本当にそれだけなのでしょうか。

企業現場に現れたナフサ不足

カルビーは、一部商品のパッケージ印刷を簡素化し、いわゆる白黒に近い包装へ切り替えました。品質には問題がないと説明されています。もちろん、ポテトチップスの味が変わるわけではありません。ですが、問題はそこではありません。食品メーカーが商品の顔であるパッケージの色数を減らすというのは、単なる気分転換ではないはずです。そこには、印刷インクや包装資材の調達に対する具体的な不安があります。

カゴメも、ケチャップの外装パッケージについて、白インクの使用を減らす方向へ動きました。ミツカンでも一部商品の休売が出ています。住宅設備では、TOTOやLIXILが受注停止や納期未定といった対応を余儀なくされました。シンナー、接着剤、塗料、包装フィルム、樹脂、容器、建材。ナフサは、私たちが普段ほとんど意識しない場所で、社会の隅々に入り込んでいます。

政府が「ナフサは確保している」と言っても、企業が必要としているのは、ナフサそのものではありません。必要なタイミングで、必要な品質で、必要な用途に使える、具体的な素材です。

「総量として足りている」ことと、「現場で使える形で届いている」ことは、まったく同じではありません。米が全国に十分あると言われても、弁当工場に容器が届かなければ弁当は出荷できません。原料までさかのぼれば確保できていると言われても、インクがなければ包装は刷れません。樹脂がなければ容器は作れません。接着剤や溶剤がなければ建材も設備も止まります。

にもかかわらず、政府説明は「全体としては確保」「一部で目詰まり」という言い方に寄っています。

「目詰まり」説明への違和感

もちろん、危機時に買い急ぎや在庫積み増しが起きることはあります。流通段階で偏りが生じることもあるでしょう。その意味で、「目詰まり」という説明が完全に間違いだと言うつもりはありません。

しかし、それを主因のように語るなら話は別です。

特にシンナーのような揮発性が高く、危険物として扱われる商品について、「流通で留め置かれて目詰まりしている」という説明には違和感があります。危険物は、どこにでも、好きなだけ、長期間保管できるものではありません。保管量や設備には当然制約があります。現場の業者が不安に駆られて必要以上に抱え込んだから詰まった、というような説明だけでは、あまりに雑です。

そもそも、翌月以降の供給見通しが不透明になれば、メーカーや卸が出荷を絞るのは不自然な行動ではありません。むしろ、限られた在庫をどの取引先に、どの用途へ、どのタイミングで回すかを調整するのは、企業として当然の危機対応です。それを「目詰まり」と呼んでしまえば、まるで現場の判断が混乱の原因であるかのように見えてしまいます。

しかし、原因を「目詰まり」で片づけていては、より上流にある問題が見えなくなります。

問題の上流にあるホルムズ海峡

問題の上流にあるのは、ホルムズ海峡です。ナフサ由来の素材が足りるのか、包装資材が届くのか、シンナーが出荷できるのか。その根元には、中東からの原油やナフサを、これまで通り日本へ運べるのかという問題があります。

政府は、首脳レベルや閣僚レベルで電話会談を行い、関係国に働きかけている、と説明しています。もちろん、外交努力そのものを否定するつもりはありません。危機の局面で対話の窓口を持つことは重要です。

ただし、電話会談をしたことと、ホルムズ海峡の通航が安定することは同じではありません。電話はつながっても、タンカーが通らなければ原料は届きません。

日本関係船舶が一隻通過したことを「前向きな動き」と受け止めたとしても、産業を動かすために必要なのは、一隻の通過ではなく、継続的で予見可能な通航です。どのルートで、どの程度の頻度で、どの船が、どの保険条件で、どのリスクを引き受けて通れるのか。そこが見えなければ、企業は安心して生産計画を戻せません。

政府が代替調達や備蓄放出を説明するのは、いわば迂回路と貯金の話です。しかし、迂回路は遠く、時間もコストもかかります。備蓄は有限です。そして、代替調達が増えたとしても、ホルムズ海峡の通航正常化が見えなければ、企業の不安は消えません。

その意味で、「目詰まり」という説明は、問題をあまりに小さく見せています。目の前の流通が詰まっているのではなく、日本の石油化学サプライチェーンの大動脈が細っているのです。

政府説明に必要なもの

なぜ企業がパッケージの色を減らし、受注を止め、休売を選ぶ段階になっても、政府はなお「全体としては確保」と言い続けるのか。さらに言えば、ホルムズ海峡の自由で安全な航行を確保するために、日本として何をしているのか。その説明こそが必要です。

国民や企業が求めているのは、「国内需要の何ヶ月分がある」という説明ではありません。イランを含む関係国との交渉はどうなっているのか。代替調達はどこまで進んでいるのか。使用制限や優先供給の可能性はあるのか。必要なのは、実情に即した説明と継続的な報告です。

そのうえで、食品、医療、住宅、物流、日用品への波及をどう見ているのか。そこまで示して初めて、国民も企業も状況を判断できます。

「何ヶ月分ある」「年を越せる見込み」と言えば、危機は管理されているように見えます。しかし、企業が直面しているのは月単位の総量ではなく、今日の出荷、来週の生産、来月の納期です。問われているのは、使える材料が実際に届くかどうかです。

政府は「目詰まり」と繰り返しています。しかし、本当に詰まっているのは、政府の説明そのものではないでしょうか。

現場で起きている具体的な不足を、全体量の話にすり替える。企業の危機対応を、需要側の過剰反応のように見せる。用途別の供給不安を、流通上の一時的混乱に押し込める。そうした説明の仕方が、問題の本質を見えにくくしています。

消費者が最初に気づくのは、商品の価格が上がったとき、棚から商品が消えたとき、いつものパッケージから色が消えたときです。その段階になってから「実は素材が足りませんでした」と言われても、困るのは現場と消費者です。

政府に必要なのは、安心感を演出することではありません。不安の原因を正確に説明することです。

「目詰まり」という言葉で片づける前に、まず政府説明のほうを点検すべきです。物流が詰まっているのか。素材が足りないのか。制度が抜けていたのか。情報が隠れているのか。

物流の目詰まりを疑う前に、まず政府説明の目詰まりを解消するべきです。

そこを曖昧にしたままでは、次に白黒になるのはポテトチップスの袋だけでは済まないかもしれません。

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