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「強さ」を演じる代償――18兆円の請求書は誰に届くのか

目に見える「やさしさ」、見えない「請求書」

「お子さん一人につき2万円、配りますね。物価高、大変でしょう?」

政府からそう言われて、悪い気のする人はいない。2025年11月28日に閣議決定された、高市政権初の補正予算案。その総額は過去最大級の18兆3034億円に上る。

ニュースでは「物価高対策」や「経済成長」という景気のいい言葉が踊っている。しかし、その中身を「使い道(歳出)」と「出どころ(歳入)」の両面から紐解くと、単なる「バラマキ」の裏で、この国の形が静かに、しかし劇的に書き換えられようとしていることに気づかされる。

「使い道」と「出どころ」の不都合な真実

まず、この巨額予算の全体像を冷静に見てみよう。

【歳出:何に使うのか】

分類金額主な内容
物価高への対応8兆9041億円電気・ガス代補助、給付金など
危機管理・成長投資6兆4330億円半導体、AI、造船、防災など
防衛力・外交力の強化1兆6560億円装備品、自衛官処遇改善など
その他(予備費等)1兆3103億円予備費の確保など
合計18兆3034億円

【歳入:どこからお金が出るのか】

財源金額割合説明
国債(新たな借金)11兆6960億円約64%将来世代が返済する借金
税外収入・剰余金3兆7000億円約20%前年度剰余金、外為特会等
税収の上振れ分2兆9000億円約16%物価上昇による税収増
合計18兆3034億円100%

いかがだろうか。「税収が増えたから還元する」という説明を聞くことがあるが、実際にインフレ(物価上昇)による税収増で賄えているのは全体のわずか16%程度に過ぎない。予算の6割以上は、将来私たちが(あるいは子供たちが)返済しなければならない「借金」で賄われているのだ。

近年の税収増は主に物価上昇によるものである。消費税は物価が上がれば自動的に税収が増える。所得税も、物価上昇に合わせて企業が賃上げすれば、給料の額面が増えて税収が増える仕組みだ。しかし、物価上昇率ほど実質賃金は上がっていない。つまり、**物価高で生活が苦しくなった国民から徴収した税金の一部を、給付金として「還元」**しているに過ぎないのだ。

借金をしてまで、政府は一体何に金を使おうとしているのだろうか。

「成長戦略」という名の迷彩服

その答えのヒントは、歳出の2つ目**「成長投資(6.4兆円)」**の中に隠されている。

政府は「AI」や「半導体」、「造船業の復活」を成長の柱に掲げている。これらは表向き、私たちの生活を便利にする民間の技術投資に見える。

しかし、高市政権下で進められるこれらの投資には、ある共通点がある。それは**「経済安全保障」という名の下、民生と防衛の両方に使える技術への投資**であるという点だ。政府はこれを「軍民両用(デュアルユース)」技術と呼んでいる。

  • 造船支援: 経済安全保障推進法で「船体」を特定重要物資に指定。商船だけでなく、有事の際の輸送艦や護衛艦の建造・修繕能力の維持も視野
  • AI・半導体: 政府文書で「経済安全保障上重要な物資や技術」と明記。次世代のミサイル制御やドローン兵器、監視システムの中核技術でもある
  • 17の戦略分野: AI・半導体、造船に加え、航空・宇宙、核融合、そして防衛産業も明示的に含まれる

つまり、直接的な「防衛費(1.7兆円)」だけでなく、「成長投資(6.4兆円)」の多くが、経済安全保障の名の下、防衛産業強化にも資する投資として機能する構造になっているのだ。

歳入の6割を占める**「将来の負担として残る国債11.7兆円」**は、暮らしを豊かにする「バター」よりも、国を強く見せるための「大砲」の鋳型を作るために注ぎ込まれようとしている。

私たちが本当に欲しい「強さ」

今回の補正予算で約1.7兆円を追加計上したことによって、高市政権は防衛費のGDP比2%目標を2027年度から2025年度へと2年前倒しで達成する方針を打ち出した。日本は数字の上でも、産業構造の上でも、「軍事強国」への道を歩み始めている。

問題は、その代償だ。

18兆円の補正予算のうち、6割以上は将来世代が返済する借金で賄われる。物価高対策として配られる給付金の財源も、実は物価上昇で自動的に増えた税収の一部だ。生活が苦しくなった国民から徴収した税金を「還元」と称して配り直し、その裏で防衛産業の基盤強化に巨額の投資を進める。

「成長投資」という看板の下、半導体・AI・造船への6.4兆円は、経済安全保障の名の下で防衛産業強化にも資する構造になっている。これは政府の公式方針であり、隠された話ではない。ただ、その実態が十分に認識されているかは疑問だ。

配られた2万円の裏には、11.7兆円の借金がある。そして、「バター」ではなく「大砲」の鋳型を作るための予算配分が、静かに、しかし確実に進んでいる。

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