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「速度重視」というのなら、なぜもっと早く動かなかったのか

食料品の消費税をゼロにする――そんな議論が、いつのまにか「1%案」へと姿を変えつつあります。理由は、レジなどシステムの改修に時間がかかるから。改修が早く済むのであればゼロもあり得るが、速度を優先して「1%」で落ち着きそうだ、という話です。それでも実施は2027年4月の予定だといいます。

ここで、ひとつ素朴な疑問が浮かびます。速度を重視するというのなら、なぜもっと早く取り組まなかったのでしょうか。

高市自民は「食品消費税の2年間限定ゼロ」を掲げて、今年2月の衆院選で圧勝しました。チームみらいを除けば、程度の差こそあれ、ほとんどの政党が消費税減税を公約に並べていました。であれば、選挙の後すぐに作業へ取りかかれたはずです。半年から一年かかると言うのであれば、なおさら、です。今から逆算しても、「ゼロ」のままで2027年4月の施行に十分間に合った計算になります。それどころか、もっと早く実現できていたかもしれません。

改修「半年から一年」は、いったい誰の数字でしょうか

さらに気になるのが、システム改修にかかる期間の説明です。昨年の党首討論で、減税に慎重だった石破元首相は、当初「レジのシステムを変えるだけで一年はかかる」と述べていました。ところが「一晩でできる」という反論が相次ぎ、システム会社に確かめ直したところ「短いところで半年、長ければ一年」だったと、のちに発言を修正しています。減税をしたくない首相は、この「半年から一年」を、減税をしない理由として持ち出していたのです。

そして今、減税を進める高市首相が口にするのも、ほぼ同じ「半年から一年」です(ゼロなら一年程度、1%なら三〜六か月とされます)。減税を止めたい人も、減税を薄めたい人も、判で押したように同じ数字を使う。同じ「半年から一年」が、減税を見送る口実にも、ゼロを1%へ薄める口実にもなっている。いったいこの数字は、誰の、何のための数字なのでしょうか。

不思議なのは、消費税を上げるときには、こうした「間に合わない」という議論をほとんど聞かなかったことです。そもそも2019年の軽減税率の導入で、8%と10%という複数の税率をレジで処理する仕組みは、すでに一度作り上げています。システムの現場を知る人たちからは、「複数税率はもう実装済みで、変更そのものは小さい」「クラウド型のレジなら翌日にも対応できる」という声も上がっています。なかには、税率変更のたびにレジの買い替えが生まれることが、業界にとっては「特需」になってきたのではないか、と指摘する向きさえあります。

もちろん、ゼロ税率は非課税ともまた違う特殊な扱いで、在庫管理や会計とも連動するため、古い大型システムでは相応に手間がかかるのも事実でしょう。エンジニア不足で全国の改修が順番待ちになる、という事情もあります。だからこそ、知りたいのです。その「一年」の内訳は、純粋な技術の話なのか、全国一斉に対応するための段取りなのか、人材不足なのか、それとも制度変更を特需と見込む業界の都合なのか。政府はその内訳を、いちども私たちに示していません。増税のときには動けて、減税のときには動けない――その理屈がどうにも飲み込めないのは、肝心の中身が見えないからです。

野党は何をしているのか

さらに言えば、これは本当に「いま」、最優先で議論すべきことなのでしょうか。中東情勢の緊張から、経済への打撃が目の前に迫っています。それは消費税の数パーセントの話で収まるような規模ではありません。

国民会議の初会合が開かれたのは、今年2月26日のことでした。その数日後、イランがホルムズ海峡の封鎖を打ち出し、米国・イスラエルとの対立は一時停戦をはさみながらも、いまなお出口が見えません。海峡封鎖で原油の供給は細り、石油備蓄は夏にも尽きかねないと指摘されています。中国との関係悪化で、レアアースの確保にも不安が残ります。つまり、会議が議論を続けているあいだに、危機はむしろ深刻になっているのです。この状況で、食品消費税をどうするかの議論に時間を費やしていて良いのでしょうか。

与党だけの問題ではありません。野党も、いったい何をしているのかと思わずにはいられません。国民会議とは、形だけなのでしょうか。何を議論しているのでしょうか。与党の言い分をそのまま受け入れるために、野党は席に着いているのでしょうか。だとすれば、私たちが託したものはどこへ行ったのか、と失望しか残りません。

減税で、暮らしは本当に楽になるのでしょうか

「財源をどうするのか」という議論もあります。けれども、減税にせよ給付にせよ、結局は私たちが納めた税金を動かしている点に変わりはありません。しかも今回は、1%分の税収にあたる年間およそ6000億円を、補助金などの形で還元して「実質ゼロ」にする案まで浮かんでいます。1%を集めておきながら、その分を税金から配り直して帳尻を合わせる――。この回り道のために動くお金も、もとをたどれば、すべて私たちの血税です。

では、減税で何が変わるのでしょうか。暮らしは楽になり、経済は回り出すのでしょうか。先行きへの不安が拭えないままでは、浮いたお金はおそらく貯蓄へと向かい、市場には流れていかないでしょう。一度きりの数パーセントは、家計の安心にはなりにくいのです。ましてこの減税は2年間の期間限定で、令和11年3月末には終わる見通しだといいます。期限つきの数パーセントで、将来への不安という根っこが軽くなるとは、とても思えません。

いま政治がすべきことは、目先の税率をめぐる綱引きではないはずです。迫りくる経済危機にどう備えるのか。外交をどう立て直し、経済を本当の意味で回復させていくのか。私たちが見たいのは、そちらの議論なのではないでしょうか。

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