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19兆円・核配備・武器輸出――高市政権「三つの転換点」が変える日本

はじめに

高市早苗政権のもとで、日本の安全保障政策を根本から変える三つの動きが進行している。米国が要求するGDP比3.5%への防衛費増額(年間約19兆円)、安保3文書見直しに伴う非核三原則見直しの議論、そして自民・維新の連立合意に明記された5類型撤廃による武器輸出の全面解禁――。これらは個別の政策ではなく、相互に連動し、日本を「専守防衛の平和国家」から「軍事大国」へと変貌させる可能性がある。その変化のコストとリスクを、誰が負うのか。

第1章:19兆円の衝撃――「官製バブル」の暴走

NATO加盟国は2025年6月、2035年までに国防支出をGDP比5%(うち中核的国防支出3.5%)に引き上げることに合意した。これを受けて米国防総省は、日本を含むアジア太平洋の同盟国に対し、同水準への引き上げを公式に要求している。英紙報道では、米側が日本にGDP比3.5%を非公式に打診したとされるが、日本政府はこれを否定している。高市政権は現在GDP比2%(現在8.7兆円)の目標を2025年度中に前倒しで達成すると表明しているが、米側の圧力を受けて、さらなる増額が現実味を帯びてきた。仮にGDP比3.5%が実現すれば年間約19兆円、実に10兆円超の増額となる。これは消費税約8%分に相当する。

だが、その使途には深刻な問題がある。2023年10月、防衛省は企業の利益率を「最大15%」まで認める新基準を導入した。これにより、防衛予算が増えれば自動的に企業利益も増える「利益保証システム」が完成した。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2024年の日本の防衛企業5社(三菱重工、川崎重工、富士通、三菱電機、NEC)の軍需売上は前年比40%増の133億ドルを記録した。三菱重工に至っては、航空・防衛・宇宙部門の受注高が2021年度の約1.1兆円から2024年度には1.9兆円へと1.7倍に急増した。

GDP比3.5%が実現すれば、三菱重工の受注は3兆円超、川崎重工は1.3兆円超へとさらに拡大する。利益率15%として計算すれば、企業利益だけで年間2~3兆円規模になる。この「過去最高益」を支えているのは、国民の税金だ。

さらに皮肉なのは、この好況の恩恵を最も享受しているのが外国人投資家である点だ。三菱重工の時価総額は3年で1兆円から15兆円へと約15倍に高騰した。株価上昇の果実を得るのは主に海外の機関投資家であり、日本国民は増税という形で負担だけを背負う構図になっている。

財源はどうするのか。2026年から始まる防衛増税(法人税・所得税・たばこ税)では年間約1兆円しか賄えない。残り9兆円は、国債増発(将来世代へのツケ)、消費税増税、あるいは社会保障削減しかない。少子高齢化が進む中、防衛費19兆円と社会保障費34兆円のバランスをどう取るのか――その答えは示されていない。

だが、政府にはもう一つの「解決策」がある。防衛産業を「稼げる産業」に変えることだ。5類型撤廃による武器輸出の全面解禁は、単なる安全保障政策ではない。防衛産業を輸出産業化し、企業収益を拡大させ、税収を増やす――財源確保の経済政策でもある。そして、その正当化のために必要なのが、非核三原則の見直しだ。「本気で防衛する国」としての対外的信用があってこそ、武器輸出先は拡大し、同盟国との軍事協力も深まる。三つの政策は、財源という糸で結ばれている。

第2章:非核三原則と5類型――二つの「解禁」

防衛費の増額と並行して、高市政権は二つの重要な「解禁」を進めている。

非核三原則の形骸化

自民党内では2027年の安保3文書改定に向け、非核三原則の見直し議論が本格化している。焦点は「持たず、作らず、持ち込ませず」のうち、「持ち込ませず」の削除または緩和だ。これが実現すれば、米軍の戦術核の国内配備が可能になり、NATO型の「核共有(ニュークリア・シェアリング)」への道が開かれる。

高市政権は中国・北朝鮮の核戦力増強を理由に「現実的な抑止力」を重視する姿勢を示しており、連立を組む維新も核共有議論に前向きだ。公明党という「ブレーキ役」を失った今、この政策が既成事実化される危険性は決して低くない。

だが、これは単なる安全保障政策の転換ではない。戦後80年、日本の外交資産だった「唯一の被爆国として核なき世界を目指す」という道徳的権威の放棄を意味する。広島・長崎の被爆者が積み重ねてきた訴えは、政府自身の手で否定されることになる。アジア諸国、特に韓国や台湾への「核ドミノ」の懸念も現実味を帯びる。

5類型撤廃と武器輸出国家化

もう一つの「解禁」が、防衛装備輸出の5類型制限の撤廃だ。現行制度では、救難・輸送・警戒・監視・掃海という5つの非殺傷用途に限って輸出が認められている。戦車、戦闘機、ミサイルなどは原則輸出できない。

だが、自民・維新の連立合意には「2026年通常国会中の撤廃」が明記された。しかも、これは閣議決定だけで実行可能で、国会での十分な審議を経ずに既成事実化される恐れがある。

防衛産業40%増という「成功体験」を得た企業と経団連は、「国内需要だけでは限界」「韓国に負けるな」として輸出解禁を強く求めている。確かに韓国は世界4大軍需輸出国を目指し、ポーランド向けだけで160億ドル超の契約を獲得した。

だが、日本は韓国と決定的に異なる。韓国企業はNATO規格に準拠し、短納期・量産体制で国際競争力を持つ。一方、日本企業は多品種少量生産が常態化し、サプライチェーンも脆弱だ。護衛艦や潜水艦は年1~2隻しか生産できず、弾薬生産ラインも細い。

輸出解禁しても国際市場で勝てなければ、結局は国内需要(税金)に依存する構造が続く。それどころか、「輸出のため」という大義名分のもと、さらなる予算投入が正当化される危険性がある。

そして最大の問題は、誰に何を売るのかだ。建前上は「紛争当事国への輸出禁止」は維持されるが、「同盟・同志国」なら可能になる。ウクライナ、台湾、中東諸国――紛争地域への間接的な武器供給に道を開くことになる。これは憲法9条の「戦力不保持、交戦権否認」の理念、そして「平和国家」の看板と決定的に矛盾する。

第3章:連動する危険性――財源問題が駆動する軍事大国化

三つの政策は個別に見ても重大だが、真に危険なのはそれらが連動することだ。そして、その連動を駆動するのが「財源問題」である。

19兆円という巨額の防衛費――その財源を確保するため、防衛産業を「稼げる産業」に変える必要が生じる。そこで5類型撤廃による武器輸出の全面解禁が「必要」とされる。輸出先を確保し、「武器輸出国」としての信用を得るには、より強固な安全保障体制を構築する「必要」が生じる。そして、同盟国に対する本気度を示し、軍事協力を深化させるために、非核三原則の見直しが「必要」になる――。

こうして、財源問題という経済的要請が安全保障政策を、安全保障政策が憲法理念を、次々と侵食していく。それぞれが他を正当化し合い、歯止めが利かなくなる。

高市政権は維新との連立により、かつて公明党が果たしていた「ブレーキ役」を失った。5類型撤廃は閣議決定だけで可能であり、非核三原則の見直しも安保3文書の改定という形で進められる。国民的な議論を経ることなく、「いつの間にか」日本が変わっていく――そのシナリオは決して非現実的ではない。

防衛産業の売上40%増は、企業と政権にとって「成功体験」となった。三菱重工をはじめとする防衛株の高騰は、この路線の継続を後押しする。だが、その成功の代償を払うのは、増税と社会保障削減に直面する国民だ。株価上昇の果実を享受する外国人投資家と、負担だけを背負う日本国民――この非対称性が、さらに拡大していく。

結語:この国は、誰のものか

高市政権が目指す三つの転換――19兆円、非核三原則見直し、武器輸出解禁――は、それぞれが単独でも日本の国家的性格を変えるものだが、連動することでその影響は計り知れない。

その変化は、誰のためのものか。

防衛企業は利益率15%の保証を得て過去最高益を更新し、外国人投資家は株価高騰の恩恵を享受する。政権は「強い日本」というスローガンを掲げ、支持基盤を固める。だが、国民には増税、社会保障削減、そして「平和国家」という戦後のアイデンティティの喪失が待っている。

私たちは、この問いに答える前に、まず「何を守りたいのか」を明確にすべきだ。

それは領土や資源だけでなく、憲法の理念であり、平和国家としての矜持であり、そして何より、増税と社会保障削減に怯えずに暮らせる日常ではなかろうか。

19兆円という数字、核配備という選択、武器輸出という産業政策――これらを受け入れるなら、私たちは戦後80年かけて築いてきた「日本」を手放すことになる。

高市政権が本気である以上、私たちも本気で問わねばならない。

この国は、誰のものか。

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