トランプと心中はNG——日本外交の自律性
「協力しなければ、NATOは極めて厳しい未来になる」——トランプ大統領がFTのインタビューでそう言い放った。しかし今、欧州は静かに、しかしはっきりと「ノー」と言いつつある。日本はこの光景から何を学ぶべきか。
「同盟の未来」を人質にした脅し
2026年3月15日、トランプ大統領は英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、NATO加盟国に対してホルムズ海峡の安全確保への協力を求め、応じなければ「NATOの未来は非常に悪いものになる」と警告しました。米国とイスラエルによるイラン攻撃を受けて、イランが同海峡を事実上封鎖したことへの対応を迫ったものです。
この発言は、今回が初めてではありません。ウクライナ問題でも、貿易交渉でも、防衛費でも、トランプ大統領は一貫して「同盟」を取引の材料として使ってきました。つまり、「言うことを聞かなければ、守ってやらない」というのが、現在のアメリカ外交の実態です。
これを「同盟関係」と呼んでよいのか。多くの国がその根本的な疑問に直面しています。
欧州の「ノー」が示すもの
今回のトランプ大統領の要請に対して、欧州の反応は明確でした。
ドイツのメルツ首相の報道官は「これはNATOの戦争ではない」と断言し、ドイツ国防大臣も「強大な米海軍にできないことを、欧州のフリゲート艦数隻がどうするのか」と一蹴しました。英国、フランス、オーストラリア、韓国、そして日本も、要請を拒否あるいは慎重な姿勢を示しました。
圧力の形も露骨です。スペインが米軍の自国基地からの攻撃を拒否すると、トランプ大統領は完全な貿易禁輸を脅しとして持ち出しました。同盟国に対して関税を「罰」として使う——これはもはや同盟の論理ではなく、取引相手への恫喝です。
「NATOは防衛のための同盟として設立された。ある加盟国が自ら選んだ戦争に踏み込み、他のすべてを従わせる同盟ではなかった」 ——元米国家安全保障会議欧州担当上級部長、アマンダ・スロート氏
欧州が「これは我々の戦争ではない」と言えたのは、単なる感情論ではありません。国際法上の正当性、地域の安定、自国民の安全——これらを総合的に判断した結果です。
「米国」と「トランプ政権」は別物である
ここで整理しておきたい重要な点があります。それは、「アメリカとの関係」と「トランプ政権との関係」を混同してはいけないということです。
歴史を振り返れば、ブッシュ政権からオバマ政権への転換で、米国の対欧関係は劇的に改善しました。トランプ第1期政権の後、バイデン政権が誕生すると、損なわれた同盟関係は急速に修復されました。大統領は4年ごとに変わります。2028年には、現政権は必ず終わります。
| 政権 | 同盟の性格 | 日本への影響 |
|---|---|---|
| 従来の日米同盟 | 価値観の共有+相互依存 | 安保・経済ともに安定 |
| トランプ第2期 | 取引・条件付きの保護 | 脅しと恫喝が常態化 |
| 次期政権(2029年〜) | 正常化の可能性 | 関係修復のチャンス |
つまり、現在求められているのは「アメリカとの同盟を壊す」ことではありません。「トランプ政権の無法な要求に付き合わない」という判断と、「アメリカとの長期的な関係を大切にする」という姿勢は、矛盾しないのです。
孤立しているのは、実はアメリカである
「トランプの要求を断れば、日本が国際社会で孤立する」——そういう声があるかもしれません。しかし現実はむしろ逆です。
米国とイスラエルによるイラン攻撃をめぐって、グローバルサウス(中東・アフリカ・東南アジア・南米の多くの国々)の対米感情は極めて悪化しています。ウクライナ問題での欧州との亀裂、WHO・パリ協定などの国際機関からの脱退——現在の米国こそが、国際社会の中で孤立を深めつつある当事者です。
その孤立した米国に過度に寄り添うことで、日本まで一緒に孤立するリスクがある。この構図を冷静に見つめる必要があります。
気になるのは、高市政権がこの構図に無自覚に見えることです。「価値観外交」を旗印に掲げながら、トランプ政権の行動をめぐって明確な立場を示さない姿勢は、「価値観」ではなく「空気を読む外交」に映ります。同盟国が次々と距離を置くなかで、日本だけが沈黙しているとすれば、それは賢明な慎重さではなく、国際社会における発言力の自己放棄です。
今こそアジア・中東との協力関係を強化すべき時
日本には、長年かけて培ってきた外交的な強みがあります。それは「どちらの側にも立たない」という信頼性です。中東との関係では、エネルギー外交の実績があります。ASEANとは、ODAを通じた深い経済的絆があります。インドとも近年、戦略的関係を強化してきました。
この信頼と関係性こそが、今の時代に最も価値ある外交資産です。トランプ政権の「どちらの側につくか」という二項対立的な圧力に従うことは、この資産を自ら手放すことを意味します。
アジア・中東との経済連携を深め、エネルギー調達先を多様化し、多国間の枠組みにおける日本の発言力を強化する——これは「反米」ではなく、日本の国益を長期的に守るための現実的な選択です。
高市政権に問われる「自律性」
高市政権は「価値観外交」を掲げています。しかし、その「価値観」が単独行動主義を強めるワシントンと一体化していくなら、本来の意味を失います。国際法を無視した攻撃を正当化し、同盟国を恫喝する政権の論理に乗ることは、「価値観外交」ではなく「従属外交」です。
欧州の主要国が示したように、同盟を維持しながらも、一線を越えた要求に対して「ノー」と言うことは可能です。それが本来の同盟国のあり方であり、日本に求められる成熟した外交姿勢でもあります。
「トランプと心中はNG」——この当たり前の認識を、今こそ日本の外交の出発点に置き直すべき時ではないでしょうか。


