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2026年参院選挙制度改革の行方——「一票の格差」と「合区」問題の論点整理

はじめに:なぜ今「参院選挙制度改革」なのか

2026年は、衆議院の議員定数削減よりも「参院選挙制度改革」が本格的に議論される年になる可能性があります。

2025年7月の参院選では、最大3.13倍の一票の格差が生じました。これは、選挙区によって投票の価値に大きな不平等があることを意味します。過去の参院選でも同様の格差が問題となり、最高裁判所から「違憲状態」との判断が繰り返されてきました。2025年の選挙についても、全国16件の訴訟のうち11件で「違憲状態」と判断されており、最高裁でも同様の判決が下される可能性が高いと考えられています。

東京高裁は、2028年の参院選までに制度を見直す必要があると指摘しています。これは、次回選挙までに抜本的な改革を求める司法からの強いメッセージと言えるでしょう。


一票の格差問題:繰り返される「違憲状態」判決

格差是正の歴史

参院選の一票の格差をめぐっては、最高裁が2010年選挙(最大格差5.00倍)と2013年選挙(4.77倍)を「違憲状態」と判断し、選挙制度の抜本的な見直しを求めてきました。

これを受けて国会は、2016年選挙から「鳥取・島根」「徳島・高知」をそれぞれ一つの選挙区とする合区を導入しました。格差は3.08倍にまで縮小し、最高裁は2017年に合憲と判断しています。

しかし、その後も格差は拡大傾向にあり、2025年選挙では3.13倍に達しました。11件もの高裁判決が「違憲状態」と判断したことは、国会に対する強い警告と受け止めるべきでしょう。

「合憲」判決も厳しい注文

「合憲」とした判決も、決して楽観的な内容ではありません。東京高裁は結論を先延ばしにすれば「違憲の判断も免れない」とくぎを刺し、2028年の次期参院選が制度見直しのデッドラインになると言及しました。

広島高裁松江支部は「具体的な検討は先送りされている」と苦言を呈しており、国会の対応が不十分であるとの認識は司法で広く共有されています。


参院改革協議会の設置と議論の現状

協議会の発足

2025年11月28日、参議院は関口昌一議長と各会派代表者の懇談会を開き、「参院改革協議会」の設置を正式決定しました。座長には石井準一参院幹事長(自民党)が就任し、2028年参院選に向けた議論がスタートしています。

石井座長は「三権分立の中で、立法府として責任を持って問題に取り組み、できる限りのことを司法の場にぶつけていきたい」と意気込みを語っています。

主要な論点

協議会で議論されている主な論点は以下の通りです。

論点概要
合区の解消現行の合区がもたらす弊害をどう解消するか
一票の格差是正投票価値の平等をどう実現するか
地方代表の確保人口減少地域の声をどう反映させるか
定数配分の見直し選挙区と比例代表のバランスをどうするか

「合区」問題:解消策をめぐる溝

合区の弊害

2016年に導入された合区は、一票の格差を縮小させた一方で、様々な弊害も生じています。

合区の主な弊害

  • 合区選挙区での投票率低下
  • 各県の地域代表性の喪失
  • 有権者と候補者の距離の拡大

解消策をめぐる対立

合区解消の方法については、各党の間で見解の相違が生じています。

【都道府県単位維持派】(自民党など)

  • 各都道府県に最低1議席を確保すべき
  • 憲法改正による「地方代表」条項の追加を視野に入れる案も

【ブロック制導入派】

  • 複数県をまとめたブロック選挙区を導入
  • 格差是正と地方代表の両立を図る

いずれの案も一長一短があり、合意形成には相当の時間がかかると予想されます。


衆議院の議論との連動

定数削減問題の影響

参院の選挙制度改革は、衆議院で進む議論とも無関係ではありません。

自民党と日本維新の会は連立政権合意書に「議員定数1割削減」を明記し、「小選挙区25・比例20」の削減を軸に検討が進められています。ただし、臨時国会での法案成立は断念され、2026年に結論を得る方向で合意しています。

衆議院では、額賀福志郎議長の下に設置された協議会で、2025年国勢調査の速報値が出る2026年春を目途に結論を出す方向で議論が進んでいます。

中選挙区制への回帰論も

衆院の協議会では、中選挙区制への回帰論も浮上しています。

  • 国民民主党:有権者が複数の候補を選べる「中選挙区連記制」を提案
  • 公明党:都道府県などを選挙区とする比例代表制が理想と主張
  • れいわ・共産・参政:比例代表制を中心とした選挙制度を提唱

一方、自民党内のアンケートでは約6割が現行制度の積極的な変更を求めておらず、各党の立場には大きな隔たりがあります。


選挙制度改革の難しさ

複雑に絡み合う利害

選挙制度改革が容易でない理由は、以下のような複雑な要素が絡み合っているためです。

  1. 都市部と地方の代表性のバランス
    • 人口が集中する都市部に議席を多く配分すれば、地方の声が届きにくくなる
    • 地方に配慮すれば、一票の格差は拡大する
  2. 現職議員の利害
    • 選挙区の変更は現職議員の当落に直結する
    • 定数削減は議席を失う議員を生む
  3. 各党の思惑
    • 選挙制度の変更は、各党の議席配分に影響を与える
    • 中立的な「効率化」ではなく、政治的帰結を伴う改革である

「身を切る改革」の本質

日本維新の会が推進する「身を切る改革」としての定数削減についても、冷静な検証が必要です。

大阪府議会では、維新が推進した定数削減により、得票率50.72%で議席率57.95%を獲得した実績があります。これは、小選挙区制的な選挙制度が多数派に有利に働く構造を示しており、「改革」が特定政党に有利な制度変更となる可能性も指摘されています。


今後の見通し

スケジュール

時期予定
2026年1月通常国会召集、議論継続
2026年春国勢調査速報値公表、衆院改革の結論目標
2026年内参院改革協議会で意見集約
2027年〜最高裁判決(一票の格差訴訟)
2028年次回参院選(制度見直しのデッドライン)

求められる姿勢

毎日新聞は社説で「選挙制度の抜本的な見直しには、参院のあり方も踏まえた議論が必要」と指摘し、「熟議の府」としての参院の基盤となる選挙の仕組みを考えるべきと論じています。

国権の最高機関を担う国民の代表を選ぶ手続きである以上、最高裁の判断を待たず、国会が主体的に議論を本格化させることが求められています。


まとめ

2026年は、参院選挙制度改革にとって重要な転換点となる可能性があります。

  • 一票の格差:3.13倍に達し、11/16件の高裁判決が「違憲状態」
  • 合区の弊害:投票率低下や地域代表性の喪失
  • 改革期限:2028年参院選がデッドライン

合区の拡大、比例代表の見直し、定数配分の変更など、様々な案が検討されていますが、都市部と地方の代表性のバランス、現職議員の利害、各党の思惑が複雑に絡み合い、合意形成には時間がかかると予想されます。

司法からの「違憲状態」という警告を真摯に受け止め、国民の投票価値の平等と地方代表の確保という、一見相反する要請をどう両立させるか——。2026年の国会論議の行方が注目されます。

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