福岡県議会をめぐる報道に、また一つ加わった。県議でつくる任意団体の議員連盟に、県が補助金を出していたというのだ。毎日新聞によれば、名称は「議員連盟事業補助金」。県は各年度に上限1200万円を予算計上し、日米友好議連、日韓友好議連、スポーツ議連など13の議連が、年間の事業計画と収支予算書を議会事務局に提出して申請していた。交付要綱に並ぶ対象経費は、旅費、交際費、消耗品費と幅広い。服部誠太郎知事は8月31日、1973年に予算計上された記録があると述べた。半世紀以上、毎年計上されてきたことになる。
ただしこれは、隠蔽されていたものが暴かれたのではない。予算書に載り、交付要綱もある。ただ、50年以上もの間、誰も見ることがなかったのだ。
問題は、補助金制度そのものだけではない。公表資料に載っていた支出が、なぜこれほど長く検証されなかったのか。そして、それを「全国で福岡だけ」と報じた調査は、各自治体の公費支出を同じ条件で比べたものなのか。
公表と検証は別である
まず、この補助金の法的な根拠は薄い。地方自治法232条の2は「公益上必要がある場合」に限って寄附または補助を認めている。公益性は、交付する側が具体的に説明できて初めて成立する。ところが明確な審査基準はない。議会事務局自身が「補助金がどのような経緯でできたか、あやふやな部分がある」と述べているのだ。総務省の担当者も、自治体が議連への補助金を予算計上する例は聞いたことがないとしている。議員の調査研究には政務活動費という専用の枠があり、これには使途基準の条例化と収支報告が義務づけられている。それとは別に、「議員連盟事業補助金」という、要綱だけを根拠とする緩い枠が同時に用意されていた。
ただ、より重い問題は、これが50年以上、誰の点検も受けなかったことのほうにある。
理由は三つ考えられる。第一に、金額である。県予算の規模からすれば1200万円は少額であり、査定の網に掛かりにくい。しかも13の議連に対し1議連あたりおよそ80万円で、ほぼ均等に配られていた。事業計画に応じて査定していれば、こうはならない。第二に、計上先である。議会費は、審議する側と支出を受ける側が事実上重なる領域だ。知事部局は議会のことに踏み込みにくく、議会は自らに不利な指摘をしにくい。県財政課は、支給の可否は議会事務局が判断していると説明している。第三に、前年度踏襲である。同額が毎年積まれれば、誰も起点を問わない。
50年という長さも見ておきたい。1973年に予算を組んだ職員も、当時の議員も、すでに一人も残っていない。誰かが引き継ぐ意思を持って続けたというより、前年の予算書を写す作業が繰り返された結果だろう。事務局が経緯を把握していないという事実は、その裏返しである。
そして今回、これを掘り起こしたのは制度ではなかった。西日本新聞が7月5日に掲載した吉松源昭県議のインタビューを起点に、議長ポストをめぐる金銭授受疑惑が全国報道となり、各社が県議会の金の流れを一斉に洗い始めた。その延長線上で見つかったものである。住民監査請求も、監査委員も、議会の自己点検も作動していない。
公表されていることと、検証されていることは違う。情報公開は、誰かが請求して初めて機能する。
「全国で福岡だけ」の根拠
報道の側についても、確認しておくことがある。
議連補助金が「全国で福岡だけ」だという報道は、根拠となるものが一致していない。毎日新聞は、同紙が全国47都道府県の議会事務局を対象に実態調査した結果としている。一方、テレビ朝日系(ANN)は、福岡県議会事務局が全都道府県に確認した結果として伝えている。報道機関が独自に照会したのか、調査される側が自ら照会したのか。この差は信ぴょう性にかかわる。
質問の立て方によっても変わる。「議連補助金を予算化しているか」と聞けば、同種の支出を別の費目で処理している自治体は「なし」と答える。会派への交付金、負担金、議会としての公式派遣に伴う視察費、政務活動費。名目が違えば回答も違ってくるのだ。福岡県議会には40以上の議連があり、補助対象はそのうち13である。残る議連が何によって活動費を賄っているのかは、報じられていない。
比較の難しさは、より丁寧な調査でも避けられない。西日本新聞は47都道府県議会にアンケートし、2022〜25年度の公費による海外視察を集計した。福岡は31回、経費3億6293万円で、比較可能な42都道府県議会で最多。平均の4721万円とは7倍を超える開きがある。同紙は、集計の中身についても説明している。政務活動費による渡航を除いたことや、知事部局の負担経費を「未把握」とした鹿児島など4県と、「回答できない」とした山口が比較から外れたこと。そして、最多とされた福岡自身が「多忙」を理由に回答せず、その数字は議会資料などから同紙が算出したものであること。
朝日新聞も、福岡県議会の海外視察を2023年以降で23件、計2億6496万円と報じたうえで、これが議会予算を充てた分であると明記している。
記事は、集計の限界を明らかにしている。問題は、その中身が引用の過程で削られることである。「全国唯一」「全国最多」という見出しだけが残れば、読者は47の議会が同じ条件で比べられたと受け取る。実際には、5つの議会は経費を把握していないか回答できないとして比較から外れ、最多とされた福岡県自身は回答していない。政務活動費という費目も最初から外されている。最多と報じられた福岡が、唯一アンケートに答えなかった議会でもあるという事実が、問題の中身をよく表している。
福岡だけかどうかは、この集計結果では判断できない。費目の名称ではなく、議員の団体の活動にどの財布から公費が入っているかを、各自治体に確認するしかない。
廃止では終わらない
県は今年度の執行を止め、補助金を廃止する方針を固めた。服部知事は、この補助金の妥当性に踏み込んだ検討が行われていなかった点は反省すべきだと述べている。
友好議連の国際交流に公益性がまったくないとは言えない。公益性を認めるのであれば、県の事業として予算化し、公務として派遣すればよい。そうすれば旅費規程が適用され、復命義務も生じ、成果を検証できる。任意団体への補助という形式を選んだ時点で、公務ではないのに公費が出るという形になっていた。
だが、廃止すれば済む問題ではない。この補助金が50年のあいだ表に出なかったのは、額が大きすぎたからでも、巧妙に隠されていたからでもない。議会費という領域に、外部の目が届いていなかったからだ。
必要なことは、それほど複雑ではない。議員の活動に使われた公費が、請求しなくても分かる状態になること。そして、議会費も外部の監査を受けること。
外部の監査人が毎年、県の支出から対象を選んで調べる制度はすでにある。議会費をその対象から外す理由はない。この二つがあれば、50年は50年にならなかったはずだ。
では、誰が見るのか。議会は自らを見なかった。知事部局も見なかった。監査委員も動かなかった。残るのは、県民と報道である。今回それが動いたのは、告発があったからにすぎない。
福岡だけが特殊だったのではない。福岡だけが、見られたのである。


